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妖しげな言葉(全15題) 02.殺しきれない声

懸賞 2005年 02月 19日 懸賞

性徒指導

 その電車は異常なまでに混んでいた。

「ッ……ふ……ンッ……ッ」
「ヤラシイ奴だな、お前は。こんな所でオナニーなんて、恥ずかしくないのか?」

 耳元で囁かれた桜井の言葉は、ちょうど流れた車内アナウンスにかき消されて、他の者の耳には届かない。

「はぁ……せん……せ……ッ」

 助けを求めるように、快感と羞恥に潤んだ瞳で桜井を見つめる啓斗。
 だが桜井は、口元にサディスティックな笑みを浮かべて笑うだけ。

「続けろよ、啓斗。俺は『止めろ』なんて一言も言ってないぜ?」

 その声は、啓斗の欲情を煽るための声だった。

「……はぁ……ぁっ……ッ」

 言われるままに、制服のズボンから自ら取り出した己の欲を、手で嬲る。
 電車に乗って、桜井に痴漢をされた事は何度かあった。
 だが車内で自慰を強要されるのは、初めてだ。
 なんとも言えない恐怖と緊張感。
 そして背徳感と――甘い快感。
 いつ誰に見られるか分からないこの状況。
 いや、もしかしたら、もう近くにいる人にばれてしまっているかもしれない。

(もしバレてたら、俺、きっと変態だって思われてる……)

 車内で痴漢に遭っているならまだしも、自分自身で己の欲を慰めるなんて。
 それは、どこからどう見ても露出狂にか、見えないだろう。
 そう思うと、啓斗の体にゾクゾクした快感がわき上がる。

「どうした? そんなに感じて。何を考えてたんだ?」

 じわりと欲からにじみ出した、淫らな蜜。
 指摘されると恥ずかしくて。
 それなのに、その恥ずかしさが、何とも言えない快感だ。

「ッ……はっ……くッ……ッ」

 殺しきれない声が、噛みしめた唇から微かに漏れる。
 啓斗は自身を嬲る手の動きを早め、徐々に快感に酔っていく。
 にじみ出した淫蜜を指で絡め取り、そのまま欲に塗り混むように広げた。
 時折くちゅんと淫らな音がしたが、車内の雑音に消される。

「ッ……はぁ……せんせ……俺……」
「頂きそうか? こんな所で?」

 蔑むような、笑うようなその声に言、啓斗はピクンと震える。

「ダメだ、我慢しろ。でも手は止めるなよ」
「そんな……ッ……無理……です……」
「無理でもやれ。少し治まったら、また頂きそうになるまで激しくやるんだ。いいな」

 冷たい声での命令に、啓斗はすがるように桜井を見つめる。
 許して……と。
 だが桜井は、やはり笑って啓斗を見つめるばかり。

「ぁ……ッ……ふ……んッ……ッ」

 許しは得られないと分かると、啓斗は赤い顔を隠すように伏せて欲を嬲る手つきをゆるめる。
 ゆるゆると緩やかに、だが絶え間なく自身に快感を与えながら、それでも解放しない程度の刺激を与え、少し気分が治まるとまた激しい手淫に切り替える。

「くッ……ッ……ぁッ……ッ」

 ジワジワと疼くからだ。
 タラタラとあふれ出す淫蜜。
 いっそこのまま頂ってしまおうか……そんな思いが一瞬頭を過ぎる。
 だが、それは許されない。
 こんな場所でと言うのも当然あるが、何より愛しい主人の許可が出てない。

「良い子だ、啓斗。その調子だ」

 桜井は快感に震える啓斗を、愛おしそうに見つめる。
 だが今の啓斗に、そんな事を気にしている余裕は無い。
 自分の中にある、ありったけの理性をかき集め、ただ快感に耐えるのみ。
 押し殺していた啓斗の息づかいが、徐々に荒くなる。

「はぁ……はぁ……ッ……くッ……ふ……ッ」

 快感を押さえ込めば押さえ込むほど、ジクジクとした体の疼きが激しくなる。
 頂かせて欲しい……。
 思い切り嬲りながら、啼かせて欲しい……。
 淫蜜と同様あふれ出す淫らな想い。
 それでも、啓斗は命令を忠実に守るべく、自分を追いつめてははぐらかす。

「もう、グチョグチョだな……後ろも濡れてんじゃねーか?」

 喉で笑う桜井の声が、さらに啓斗を追いつめる。

「俺の、ぶち込んで欲しいか?」
「欲しいです……先生……お願い……俺を……犯して……せめて頂かせて……」

 すがる様に、哀願する様に見つめてくる啓斗に、桜井が喉の奥で笑う。

「ここじゃ、無理だな」

 桜井はそう冷たく言い放ち、啓斗の手淫をただ見つめる。
 たぶん、終点までこの行為を続けなければならないだろう。
 電車が終着駅に着くまで、あと10駅。
 行為の終わりを知らせるアナウンスが流れ、この人でいっぱいの箱を降りた時。
 たぶん自分は、恥じらいもなく主にすがり、『抱いてくれ』と……『どうか嬲って苛めてくれ』とすがるのだろう。
 殺しきれない心の声が、どうか車内であふれ出してしまわない事を、啓斗は願った。

Fin
お題配布元 秘密のお題

by mugensisou | 2005-02-19 18:56 | お題

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